AI活用時における結晶性知能の弊害対策について

前回、AI活用と結晶性知能の親和性について記事にさせていただきましたが、結晶性知能も良いことばかりではありません。注意すべき点を踏まえながら活用するのが良いのではないかと思います。
柔軟性の低下と思考の固定化
知識や経験に基づく結晶性知能ですから、ご自身で経験・習得したこと以外はその方の結晶性知能とはなっていません。これまでの知識や経験が活かしにくいケースではAI活用とは必ずしも相乗効果が出ないと考えられます。また、知識や経験が蓄積されていく一方で、せっかく蓄積した知識や経験が足枷となり柔軟性の欠如を招く場合があります。
時代の変化
変化の激しい時代ですから、また日常で使用するITの進化もこれまでになく早まってきていると思います。実際に私の周囲にもいわゆるガラケーからスマートフォンに乗り換えたり、スマートフォンの機種変更をするだけでも大騒ぎの事態となるケースがありましたwガラケーは目を瞑っていても操作できるくらいに習熟されていても、スマートフォンはそういうわけにはいきません。機種によっても大きく操作方法が異なりますし、「以前はこうだった」という知識が邪魔をしてしまい、着電や発信、文字入力すら困難になってしまうケースを見たことがあります。デジタルネイティブの若い世代の方には難なく通り抜けていく操作です。脳みその柔軟性が低下してしまうとなかなか大変な事案です。そうした際に、周囲の得意な人に頼ってしまうことも多々あるのではないかと思います。便利なIT機器も、うまく使いこなせないとストレスでしかありません。ただ、なかにはサポート源のない1人暮らしの方もいましょうし、プライドが邪魔をしてしまい人になかなか聞けない方もいらっしゃると思います。こうした際にAIは大きなサポート源になると考えられます。
生き残るために
こうした変化の激しい時代において、環境の変化に対応した場合が良い場合と、そうでもない場合もあるかとは思いますが、対応できないとストレスフルな場合も多いかと思います。少し脱線しますが、”It is not the strongest of the species that survives, nor the most intelligent that survives. It is the one that is most adaptable to change.”(仮訳 生き残るのは、最も強い種でも、最も賢い種でもありません。生き残るのは、変化に最も適応できる種です。)という言葉は、てっきりダーウィンの言葉だと思っていたのですがどうも違うようです。詳しくはコチラを参照ください。こうした「変化への適応力」が問われる時代だからこそ、結晶性知能に由来する思考の偏りを自覚し、AIを“補助輪”として使う視点が重要になります。
結晶性知能に起因して出やすいバイアス
さて、ここからが本題です。これまで培った知識や経験を変化させていくことは相当に難しいと思います。結晶性知能は「過去の成功パターン」を素早く引き出す力ですが、その強さゆえに、過去の枠組みで現在を解釈してしまい、以下のようなバイアスが強化されやすくなります。結晶性知能に起因して出やすい認知バイアスをざっと列記します。これらのものは、結晶性知能に起因せずとも十分起こりうるバイアスです。実際に航空機の墜落事故の原因ともなるケースがありトレーニングも行われているものです。
- 確証バイアス(自分に都合の良い情報のみ収集)
- 正常性バイアス(都合の悪い情報を過小評価)
- 権威バイアス(地位や肩書きにより過大評価)
- 保守性バイアス(新しいもの受け入れられない)
バイアスへの対処方法
生成AIは使い方次第でバイアスを補強してしまう可能性があります。そうならないためには、バイアスを補正する第二の視点が必要になります。このためには以下のような思考フレームに基づいたプロンプト(AIへの指示や質問)が推奨されます。
バイアス回避のプロンプト
バイアス回避には様々なプロンプトが考えられます。他にも尋ね方はいろいろあるかと思いますので皆さんも是非生成AIに質問してみてください。私自身、「率直な意見を求む」と一言付け加えたばかりに、AIにボコボコに論破されたこともありますw
メタ認知プロンプト例
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反証探索テンプレ
私の主張に反対する立場を、できるだけ強く・公平に作ってください。根拠も添えてください。
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前提洗い出しテンプレ
私の判断に含まれている前提や思い込みを列挙し、見落としがないかチェックしてください。
柔軟性を保つためのポイント
仮に、バイアスを補正するためのプロンプトを使用したとしても、最後に決定するのは自分自身です。年齢を重ねると知識と経験が増える一方で、「自分の考えが正しい」「こうあるべきだ」という信念が強くなり、無意識のうちに柔軟性が失われやすくなりがちです。対処が難しく感じられるかもしれませんが、ほんの少し意識することで柔軟な思考を保つことは十分可能です。
無知の知:「知らない」を認める勇気
年齢を重ねて知識や経験を積むほどに「知らない」「わからない」とは言い難いものです。ただ、勇気を持って「それは知りませんでした。教えてもらえますか?」と素直に聞く姿勢が重要です。これは学び続ける姿勢ともなります。古代の偉人の説いた「無知の知」(言葉的にはソクラテスですが、論語の「知之為知之、不知為不知、是知也」の方が意味合いとしては近いと思います)をあらためて大切だと感じます。
異なる価値観を理解しようとする
違う価値観や生活感を持つ人の意見には、固定観念を崩すヒントが多くあります。「理解できない=間違っている」ではなく、「なぜそう考えるのか?」と掘り下げてみるのがコツです。個人的には、最近よく聴いているあいみょんがタトゥーを入れたニュースが流れた際には衝撃でしたが、よくよく考えてみると、アンジェリーナ・ジョリーがタトゥーを入れていても問題にされないのに、と思い起こされました。今、私の中では彼女なりの想いや考えがあってしたことと自分なりに理解しようとしています(賛否両論あると思います)。なお、日本や中国でタトゥーがネガティブな理由は、歴史的に犯罪者への刑罰であった文化的背景と解釈しています。また、マオリ族のタトゥーは高貴さの象徴とされており、この場合、まさに文化ですよね!ここでのポイントは、異なる価値観を理解しようと努力することだと考えています。安易に同調してしまうことはむしろ無理解とも言えるかと思います。
全か無か思考にならないようにする
ドラマ水戸黄門では勧善懲悪であることが人気の理由の1つであったりしますが、柔軟な思考を育てるためには「良い/悪い」「正しい/間違い」ではなく、「どんな背景があるか」「どんなメリットがあるか」を考え、グレーの部分を受け入れる考え方が求められます(とはいえ、清濁合わせ呑むと言って賄賂をもらってはいけませんw)。ここでのポイントはグレーの部分を考えることにあるのではないかと思います。また、全か無か思考(二分割思考)については認知療法の専門家アーサー・フリードマンが心の病に罹りやすい12の思考パターンの1つに挙げたものともなります。
一呼吸おく
長年の経験と知識を積み重ねた人ほど間違いに関して「それは違う!」と即断即決しがちです。特に多忙を極めるエグゼクティブであればあるほどやむを得ないケースともいえます。「結論から言え」「5分で説明しろ」などあるあるですwただ、残念ながら打率10割のホームランバッターはいません。怒りのボルテージが上がる前に、「なぜなのか?」と自問してみてください。この一呼吸おくことで、固定化した思考に余白が生まれ、柔軟性を保つきっかけとなりえます。私も子どもたちがある日突然へそピアスをしてきたら、「なにそれ!」と反射的に反応してしまいそうですがwまずは一呼吸おいて、異なる意見や考え方に耳を傾けることは大切かなと思います。
一呼吸おくことはアンガーマネジメントにも通じます。もしご関心があれば、弊社で実施しているアンガーマネジメント診断も参考になるかもしれません。詳しくはコチラをご覧ください。
日常生活に小さな変化を取り入れる
柔軟性を保つためには、筋力トレーニングと同様に日々のトレーニングが必要です。少しずつで構いません、いつもと違う道を歩いてみたり、いつも聴いている音楽とは異なる音楽を聴いてみたり、異業種の方と交流してみたり、などなど、ちょっとしたことでトレーニングになりえます。これは、1日だけやっても効果はなかなか出にくく、日々続けることが大切です。
まとめ
結晶性知能は、経験と知識を土台に素早く判断できる強力な能力であり、AI活用とも高い親和性があります。一方で、その強みはときに思考の固定化や柔軟性の低下を招き、確証バイアスや保守性バイアスなどを強めてしまう危険もはらんでいます。
だからこそ、AIを「答えをくれる存在」としてではなく、「自分の思考の偏りを映し出し、別の視点を与えてくれる相棒」として使うことが重要です。メタ認知的なプロンプトで反証や前提の洗い出しを行い、自分の判断を一段高い視点から点検する。こうした使い方は、結晶性知能の弊害を抑えながら、その強みを最大化する助けになります。
最終的に決めるのは自分自身ですが、「知らない」を認める勇気、異なる価値観を理解しようとする姿勢、白黒で割り切らない思考、一呼吸置く習慣、日常の小さな変化――こうした小さなトレーニングが、年齢や経験に左右されない柔軟さを育てます。変化の大きい時代をしなやかに生き抜くために、結晶性知能とAIを“補い合う関係”として活用していきましょう。
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